第一工場

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作業中の私語は厳禁である。 しかし、もろ味の作業は単調極まりなく、暇で仕方がない。 マスクをしていて口元が見えないこと、オヤジが巡回にほとんど来ないことから、よく作業中にくだらない話しをしていた。 稀に滝沢以外の刑務官が巡回に来ることがあるが、もろ味の作業は少し高いところでおこなっているため、すぐに人の気配を感じることができ、お喋りを中断することは容易にできた。 また、刑務官を見かけた受刑者は、大きな声で「ご苦労様です」と言う暗黙の決まりがあり、これが受刑者間でオヤジがそばにいることを知らせるサインになっていた。 一般刑務所では受刑者が刑務官に「ご苦労様です」などと言うことはあり得ないだろう。 もし、自分が刑務官の立場なら、その挨拶はやめさせるだろう。 そのぐらい無意味な挨拶だからだ。 ただ、それをやめるように注意しないということは、おそらくオヤジ連中もそれがサインであったことを察しているのだろう。 市原というところは、そいゆうところだった。
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