幸せの在処

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まさに命がけの、危険な綱渡りだった。 五日目の朝、朱羅の第三の瞳は完全に閉ざされ、額には小さな赤い印が残るばかりとなった。 力尽きて倒れた雪花の元に駆け寄ると、彼女は球のような汗を浮かべて浅い呼吸を繰り返しながらも、満足気な笑みを見せた。 『……これで、そなたは…自由、だ…』 あの時の気持ちは、何にも例えようがない。 苦しいような、切ないような、それでいて温かくて、愛おしい。 涙が頬を伝い、渇いた畳にポタリと落ちた。 疲れきって眠りに落ちた少女の小さな手を握りしめ、その隣に身を横たえて、白み始めた空気の中、始めて二人で一緒に眠った。 --そう、あの朝からずっと愛おしさが消えない。 「朱羅……?」 あやめの首に手を回し、そっと顔を引き寄せて朱羅は口付ける。 「私はずっと、自分の血を、運命を、厭わしく思っていました。けれどもこの身に宿る力のおかげで、こうしてあなたに命を与え続ける事ができる。そう思えば、少しだけ自分を許せるような、存在を許されているような、そんな気持ちになれるのです」  
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