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それは、他の者には出来ない、自分だけの役目だから。
一時(イットキ)彼女の飢えを癒すことならば、他の者にも出来よう。
しかし、こうして毎日命を与える事は、朱羅だけに出来ること。
阿修羅の力の源は、失われてはいない。
雪花の封印によって眠りについているとはいえ、他の生き物とは比較しようのない膨大なエネルギーが、彼の奥底には息づいている。
自分の生命力を彼女に分け与えても、失われた分は自動的にいつの間にか補われ、数時間も経てばすっかり元通りになっている。
「とはいえ、度を越した量を一度に失えば、いくらあなたでも死んでしまう。私が飢えに任せて欲しいまま奪ったら…」
「ええ、それも承知しております」
朱羅は美しい顔(カンバセ)に喜びをにじませる。
「ですが、仮にそうなったとしても私は幸せです」
「…またそんな物騒なことを…」
呆れたように吐息を落とすあやめの頬を撫でながら、朱羅は小さく笑った。
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