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「ずっと側にいて…朱羅」
この先に何があっても、掴んだこの手を離したくはない。
「離れろと言われても、離れませんよ」
「うん」
柱の影に身を潜め、もう一度二人が距離を縮めた--その時だった。
【……う…え】
「---え?」
あやめが、ピタリと動きを止める。
【あね…うえ…】
刀祢の時と同じような、遠い遠い、誰かの声。
ノイズのように、ザザッと雑音混じりに、声が聞こえる。
そして頭の中を掠める、あの面影。
【姉上……】
切なげな、哀しげな、あの人の声。
「凪………」
唇を重ねる直前に呟かれたその一言で、朱羅の顔から表情が消える。
「……御前?」
呼び掛けでハッと我に返り、身を引いた朱羅を見てから、あやめは一瞬泣き出しそうな顔になった。
---今、私は何を……
誰の名を口にした?
愛しい人の腕の中に在りながら、誰の名を……
「朱羅、私……」
自ら一歩、二歩、後ずさって彼から遠退く。
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