禁断の記憶

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「不満とすれば、その答えだ」 おもむろに彼は雪花の手を取り、指先に唇を寄せた。 「…影明?」 「もう、凪とは呼ばないんだな」 瞬間、唇が掠め、指先は熱を孕む。 「雪花…。あなたは、あの約束をもう忘れたのか?」 「あの約束とは…常陸の国を出る前に、私がそなたに誓った事か?子々孫々まで、そなたの家を守るという…」 だが、影明は首を振る。 「違う。それよりも……もっとずっと昔のことだ」 「ずっと、昔の?」 「ああ。まだ俺が子供の頃、あなたを姫と呼んで慕っていた頃の話だ」 雪花の脳裏に、幼い凪の姿が浮かぶ。 葦の生い茂る野原。 透き通った泉の水の冷たさ。 懐かしい常陸の風の匂い。 葦の葉を掻き分けて走る凪の足音。 ”いつかあなたより大きく、強くなって、必ず迎えにきます” そう言って真っ直ぐに自分を見る凪に、雪花も一つ、約束をした。
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