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逃れようにも、指先に力が入らない。
「…香に混ぜ物をした。強力ではないが、少しばかり妖の力を奪うものだ。体の自由がきかないだろう?」
冷たくすらある声音で、静かに影明が言う。
---これは、だれ?
いつものあの青年は。
私の大事な小さなあの子は……どこ?
「卑怯だと言われても構わない。でももう、嫌なんだ」
一体何が嫌だと言うのか。
自分の何が、彼をこんなふうに駆り立てたのか。
間違えたのは、いつ?
一体どこで、何を間違えたのだろう。
「安心して。あなたの持つ本来の力が損なわれたわけじゃない。あなたにはまだ、俺から逃れる方法が残っているだろう?」
そうして影明は、雪花を見下ろしながら、ゆっくりとその間を詰めた。
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