禁断の記憶

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「嫌ならば、殺してくれ。あなたの、その唇で」 二つの唇が、静かに、深く重なる。 ややあって、影明が何を言いたいのか、少しばかり分かった。 ---『死の口付け』 そう称される、雪花の力。 口付け一つで、他者の命を奪う能力。 その気になれば、こうして唇を重ねている今この瞬間にでも、影明を殺める事は可能なのだ。 承知の上で、彼は己の命を雪花に委ねている。 同時に彼は選択を迫っていた。 命を奪うか、身を委ねるか。 命を賭して、彼は愛を求めているのだった。 (私が、影明を、殺す…?) 心の中で、雪花は小さく首を振る。 ---出来るものか。 ---出来るはずがない。 そんな事が出来るのならば、とっくにしていた。 同朋を手にかけてまで、彼の軍門に下るという選択をしたのは何の為か。
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