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---殺せない。殺せるはずがない。何故なら、彼は……
「愛しているんだ、あなたを」
帯が解かれ、柔らかな絹擦れの音がする。
月明かりだけが、うっすらと闇を照らしていた。
霞がかったような意識の中、肌に伝わる息遣いと、下腹部を貫く熱だけが、雪花を現実に繋ぎ止めている。
「………っ!!」
思わず悲鳴を上げそうになり、歯を食いしばって声を殺した。
選んだのは自分だ。
彼を殺せなかったのは、自分だ。
これは罰。
大切な者を裏切り、男としては愛せない者に身を委ねた己への罰。
故に、声を上げることは許されない。
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