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「こんにちは」
「こんにちはじゃねぇよ。何だよ、いきなりこんな時間に」
時刻は二十三時三十分。良い子はもうとっくに夢の中にいる時間。そんな時間に、突如我が家である二階建て木造ボロアパート二○二号室に訪ねてきた彼女、狩野 美羽(かのう みう)は笑顔で挨拶をかましやがった。
ジーパンに白いダッフルコートを身につけている彼女は、身長百五十センチほどの小さい体には不釣り合いなほど大きい緑色のリュックを背負い、茶髪のショートヘアーの下にある小さい顔からこぼれる笑顔は、その少したれた目と相まって、こんな状況じゃなければ百パーセント俺の心を和ませていたのだろうが、いかんせんタイミングが悪すぎる。
今の俺にとってその笑顔は苛立ちを増幅させる道具でしかない。
「一緒にピクニックにいかないか?」
「は?」
「だから、ピクニックに行こう!」
ピクニック? 何を考えているんだこいつは。今何時だと思ってる。それに俺は今バイトが終わったばっかりで疲れてるんだ。たのむから寝かせてくれ。
「お前、俺が今バイト終わりだってこと知ってるだろ?」
「もちろんだ。私は君の彼女だからな」
「じゃあ俺が今どうしたかわかるよな?」
「もちろんだ。だから一緒にピクニックに行こう!」
ダメだこいつ……早くなんとかしないと! まったく俺の気持ちなんてわかっちゃいねぇ。
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