1292人が本棚に入れています
本棚に追加
見つめ合ったまま、動かない。
少なくとも吉田は動けない。
女は構える素振りも、仕掛ける素振りも見せない。
それは、吉田を更に惑わせた。
距離は変わらず刀一本分。
吉田は意を決した。
殺られる前に、殺る。
吉田は刀を抜い…
「!!」
抜けなかった。
吉田の首には、刀が添えられていたのだ。
鈍く光る刃。
目で辿っていくと、女に行き着いた。
女の腕が僅かに動いたとき、吉田の首の皮一枚が破けたようだ。
一筋の血が、吉田の鎖骨を伝った。
「ねェ」
初めて聞く、女の声だった。
感情が感じられない、冷たくも暖かくもない声だった。
女は目線を、自身の刀から吉田へと移した。
「何か遺言があるならどうぞ」
その言葉で、瞬間的に悟った。
最初のコメントを投稿しよう!