序章 胡蝶の通り名

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見つめ合ったまま、動かない。 少なくとも吉田は動けない。 女は構える素振りも、仕掛ける素振りも見せない。 それは、吉田を更に惑わせた。 距離は変わらず刀一本分。 吉田は意を決した。 殺られる前に、殺る。 吉田は刀を抜い… 「!!」 抜けなかった。 吉田の首には、刀が添えられていたのだ。 鈍く光る刃。 目で辿っていくと、女に行き着いた。 女の腕が僅かに動いたとき、吉田の首の皮一枚が破けたようだ。 一筋の血が、吉田の鎖骨を伝った。 「ねェ」 初めて聞く、女の声だった。 感情が感じられない、冷たくも暖かくもない声だった。 女は目線を、自身の刀から吉田へと移した。 「何か遺言があるならどうぞ」 その言葉で、瞬間的に悟った。
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