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文久二年冬、京の都。
此処に、宿から見る京の景色に感嘆の声をあげる男が一人。
癖毛の黒髪を無造作に一つに結んだ、浅黒い肌のこの男。
「おおーっ!さすが京!まっこと華やかじゃ!」
土佐藩脱藩浪士、坂本龍馬である。
「やめんか、龍馬さん。田舎者みたいでみっともない」
書物を眺めながら龍馬を諫めたのは、土佐藩士の中岡慎太郎。
龍馬は、師である幕臣勝海舟(カツ カイシュウ)に頼まれ、京に来ているのだ。
・・
中岡とは偶然京で再会し、宿代を安く済ませる為に、同じ部屋に泊まっている。
「しかし、菓子を買う為に京に行けとは…。勝殿も人使いが荒いのう。龍馬さんも大変じゃな」
中岡のぼやきに、龍馬は楽しそうに答えた。
「いんや、せっかくじゃき京見物じゃ!…あ、店の名前なんじゃっけのう?」
中岡は懐から小さな紙(失くすから、と龍馬に預けられた)を取り出し、読み上げた。
「椿屋の…干菓子じゃて」
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