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すると、龍馬は中岡の持っている紙をひったくるように奪った。
「龍馬さん?」
「下見じゃ、下見。椿屋がどんなもんか見とかねば」
「外を歩きたいだけじゃろ」
中岡の指摘に、龍馬は明るく笑った。
中岡は息を吐きながら、見ていた書物を閉じた。
「近頃の京は物騒じゃと聞いちょる。わしもついて行って…」
と、顔を上げたときに気付いた。
部屋には自分一人しか居ない。
中岡は書物を畳に置き、低く呟いた。
「全くあの人は…」
「ふう…。やっと出られたわ。中岡は細かくて敵わん」
一人ごちながら、龍馬は京をのんびりと歩く。
流石、京である。
町は活気付いているのだが、江戸のそれとはまた違う。
華やかで雅で、京ならではの趣を感じる。
だが、中岡の言う通り近頃の京は物騒である。
辻斬りが横行しているのだ。
怖くておちおち夜は出歩けぬと言う者も居る。
しかし、龍馬は思う。
【こう見えても、わしは北辰一刀流免許皆伝じゃ。そんじょそこらの侍には負けん】
そう思って、ふと気付いた。
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