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畑から奴隷小屋までの道を歩いていると、白い大理石の廊下の側で、不意にセイは誰かに呼び止められた。
「こんばんは、セイ」
鼻にかかったような声に、肩が反射的に揺れる。
「旦、那様…」
「どうしたんだい?恐い顔をして」
「い、いえ…なんでも、ありません…」
そう言いながらも、セイは自分の顔が強張っていくのを感じた。
「今夜は月が綺麗だ。まるで、狼の遠吠えを誘っているかのようだね。そうは思わないかい?」
「そ、そうですね。本当に狼の声が聞こえそうなくらい…で、では、私は宿舎に戻りますので。おやすみなさいませ、旦那さ…」
視線を避けるように、早々と立ち去ろうとしたセイの肩を、男が掴んだのはその時だった。
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