実に素晴らしい短編集

第一話

　山音アツ。
　自他共に認める学園一の美少女である。
　腰まで伸びた艶やかな黒髪。ややつり目がちな瞳はぱっちりと開き、凛々しさと愛らしさを併せ持つ。引き締まったウエスト。スカートから伸びる見事な脚線美は、黒いオーバーニーソックスに包まれており、ちらりと覗く絶対領域は、男の視線を惹き付けて離さない。胸がないのはチャームポイントだ。本人は気にしているようだが……それがまたイイ。
　山音アツと関わったことない奴の見識は、まあこんなもんだろう。
　俺もそうだったさ。
　だが、そんな理想的虚像に騙されて砕け散る男共を幾人も見てきた俺としては、山音アツをただの美少女として見ることはできない。
　一年余りの高校生活で、何度痛い目に遭わされたことか。
　今の俺には、「綺麗な薔薇にはトゲがある」という格言を心底理解できる。
　つくづく思う。
　人間、大事なのは中身だってさ。