第一話

7/8
前へ
/47ページ
次へ
「ちょっと可哀想だったかもな」  下校中の電車の中、雄也がぽつりと呟いた。 「山音のことか?」 「ああ」 「かまわんだろ。奴のわがままぶりは目に余る。いい薬になっただろうよ」 「それはそうかもしれないけどな……」 「山音アツから確実に一本取れる奴なんかうちの学校にはいない。それを考えれば、ちょうどいいくらいさ。そうだろ雄也」 「ううむ……」  ふむ? 納得できないようだな。 「おいおい勘弁してくれよ雄也。まさか、山音に惚れたとか言うんじゃないんだろうな」 「いや、俺もそこまでバカではないよ。ただな……」 「ただ、なんだ?」  俺の問いに、雄也はアゴに手を当てて思案する素振りを見せた。 「これは多分だけど、山音アツは彼氏を欲しがっている」  お前はいきなり何を言い出すんだ。  俺のあきれた視線に気づいたか、雄也は慌てて弁明を始める。 「違うって。多分だよ、多分」 「多分って言ってもな。若い女のほとんどは彼氏を欲しがっていると思うが」 「……確かにその通りだな」  なんだかなぁ。  雄也が何が言いたいのかさっぱり解らん。  唯一解ることは、山音アツに彼氏ができることはないだろうということだ。あの性格じゃあな。  合掌。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加