嘆きの湖畔

1/17
前へ
/187ページ
次へ

嘆きの湖畔

 持っていたバックを、下に落としてしまった。  何が起きたか、理解ができない。  できる人なんていないだろう。  ドアを開ければ、隣のアパートと隔てている、コンクリートの壁が見えるはずだった。そして左に曲がると、道路に出て少し歩くと大通り、そして右に曲がると駅に向かう道路、靴を買うはずだった商店街があるはず。  しばらく立ち尽くした。  目の前に広がるのは、森。  大きな木が並んでいる。  地面は芝生のような、黄緑色の草、少し湿った土でできた小道。  まるで、童話の赤ずきんちゃんの絵本に出てくる様な……。  いや、赤ずきんちゃんの絵はもっと華やかだ。花も咲いている。  ここは色合いが、薄い。花も咲いてない。  木も大きいが、なんとなく元気が無いというか……。枯れかけている? でもないのだろうか、活気がない。  自然が放している、パワーというのだろうか。そういう物が感じられない。  空を見てみた。曇っている。雨は降りそうでもないが、太陽の光が薄い。  そう、全体的に、何もかもが薄いのだ。  赤とか黄色の、華やかな色がない。  テレビや映画で見る、イギリスの田舎の風景に似ている気がした。でも何かが微妙に違う。  何が違うのだろう? やっぱり木かな?  そして私は、なぜこんなに落ち着いて状況分析してるんだろう。  私、夢見てる訳ではないよね?  夢の中にいる様に、恐怖感というのだろうか、違和感がない。何故だろう?  風が吹いた。私の頬を撫でた。  ここにいても何も状況が変わらない気がしたので、バックを持って歩き出した。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加