嘆きの湖畔

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 そうして女の人は、紅茶のいれ方を教えてくれた。  葉はティースプーンで二杯。お湯で蒸して、ポットを水平にして……。  そう言えば、喫茶店に行くとそんな事してた。 「私、ティーパックしか飲まなくて」 「葉から飲むと美味しいわよ、全然違うわ」  女の人は笑った。  花が零れるような、という表現があるが、正にその通りだ。  造られた様な、人形みたいな顔立ち。女優みたいだ。  その時、何か、ひっかかった。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 「お砂糖入れる?」 「はい、二つ」 「私は一つ」  陶器の綺麗な砂糖入れから、角砂糖を取り出した。  手もすごい綺麗。火を付けて暖炉に薪を入れている様には見えない。  出された紅茶を飲んでみた。美味しい。昨日あの店で飲んだ紅茶の味に、似ている気がした。 「ごめんなさい、茶菓子も何もなくて。何分、人が来る事なんて滅多にないから」 「いえいえ、充分です。美味しいですね」 「あぁよかった。ありがとう」  女の人は、半分ほっとした様な感じの、綺麗な笑顔を見せた。  特に何もしなくても、いるだけで人をひき付ける。そういう人がいるけど、この人はそんなタイプだ。外見もかなり綺麗だが、雰囲気的に華がある。  こういう人って、何が違うのかな。生まれ付いてのものだろうか。  紅茶を飲み干した。昨日からやたら美人と、美味しい紅茶に当たるな。  紅茶を飲んでいる女の人を見て、思った。  何だろう、なにか、頭の隅に引っ掛かるものが……。 「あの、前に一回お会いした事あります?」  私、この人知ってる気がする。  すると女の人は、笑った。日本人特有の、ごまかす様な笑い。 「……そうね、会った事あるかもね」  どこで? どこで会ったんだろう? 「ここで一人で暮らしてるんですか?」 「そうよ」  家の中を見ると、そんな感じはする。生活感がない。でも一人で暮らしているにしても、殺風景な気がする。  て私も人の事は言えないけど。
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