嘆きの湖畔

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「一人で寂しくないですか?」 「そうね、そういう時もあるけど、もう慣れてしまったから。鳥も来なくなったし」  そう言えば、鳥の声がしなかった。虫も見てない。雑草は生えてるけど、花は咲いてない。生命的な物も薄い。  どうしてこんなに、何もかもが薄い世界なのだろう? 「あの湖、魚とかいないんですか?」 「多分、いないと思う。船もないから、奥には行けないし」 「夏になったら泳いだり?」 「ここは夏は来ないわ。常に冬よ」  常に冬?  だから花が咲かないの? 冬の花もないのかな。 「あなた、名前は何ていうの?」  なぜだろう、本名を言いたくない。 「明日香っていいます」  この前見たドラマの、女の子の名前を使った。 「いい名前ね。私はアリスっていうの」 「アリス?」 「えぇ、どうかした?」 「昔飼ってた猫の名前と、同じ」 「まぁ偶然ね」  それから、猫の話で盛り上がった。アリスはその時読んでいた「不思議の国のアリス」から取ったこと、姉が友達から貰ってきた白い猫だということ。 「私も飼いたいわ。今度エナへ行った時にでも、捨て猫いないかな」 「エナ?」 「えぇ、あの森を抜けた所にドルクって村があってね。その向こうが、エナ。結構大きい街なんだけど、私は年に一回くらいしか行かないの。いつもドルクで入り用な物を買ったり注文して、届けてもらう」  へぇ。てかこの人、収入源何なんだろう? でもさすがにそれは聞けないな。  アリスさんは私の考えている事が分かったらしい。少し微妙な笑い方をした。 「……私、昔歌うたってたの。結構大きいステージにも立ったし、その時の蓄え」 「え、歌手だったんですか? すごい」 「すごくないわよ、昔の話だし」  だからウクレレまがいの物があるのか。 「自分で曲とか作ったりするんですか?」 「まあね。でもそっちの才能は、あまりないみたい。残念だけど」 「でもすごいです」  私はハンドメイドとか趣味にしてる人が理解出来ない。料理だってたまにしかしない。大概コンビニで終わらせてる。別に料理が嫌いな訳じゃないけど、面倒臭い。  自分で物を作るなんて発想が、見事に何もない。買い物だって面倒臭い、ボタン付けるのも億劫だ。 「あら、いつの間にやら暗くなってる」  え?
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