嘆きの湖畔

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「おはよう、よく眠れた?」  アリスさんは朝からさわやかだ。寝起きがいいのかな。 「えぇ。とっても」 「朝食の用意をしたのよ。これ食べたらドルク村へ行くから」 「はい、ありがとうございます」  紅茶とパンケーキ。サラダもある。パンケーキにはりんごのソースが掛けてある。  そう言えば昔、お姉ちゃんとパンケーキを作ったな。  りんごを煮詰めるのに私が焦がしてしまって、包丁で取ったっけ。  椅子に座って、アリスさんが紅茶をいれてくれた。今日もアッサムだ。 「昨日、私が歌手になって、ステージで歌ってる夢見ました」 「まあ。どんな歌うたったの?」 「私が子供の頃に流行った歌です。袖に恋人が待ってました」  するとアリスさんの表情が微妙に変わった。笑顔が消えた。  え? 「……そう、幸せな夢ね」  彼女は紅茶を飲んで、下を向いた。表情は沈んだままだ。  私、まずい事言ったんだろうか……? 「私の恋人もね、昔そうやって私を待っててくれたの」  ……なるほど。 「今は、何をしてるんだろうね。まだ歌ってるのかな」  アリスさんは笑いながら言った。悲しい愛想笑い。私は言葉に詰まった。 「同業者、だったんですか?」  あ、泥沼?  でもアリスさんはあっさり答えた。 「まあね。彼はバンドのヴォーカルだったけど」  バンドのヴォーカル? 「二人で、夜の街によくお忍びに出掛けたわ。二人とも顔が知れ渡ってるから、昼は会えないし」  夜のお忍び?  私は思い出した。
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