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──芸能人て、デートとかどうしてるのかな?
──夜とかじゃないの? 週刊誌に写真とか撮られちゃうから。
そう言えば、こんな会話をした事がある。誰とだろう?
……小学生の時の友達だ。
小学生……。
一つの記憶が、甦った。
自分の部屋の天井。
壁に貼った、エイジのポスター。
棚に並べたCD。
雑誌の切り抜き。
学校でした、歌番組の話。
──昨日のエイジ、カッコよかったよね!
──エイジの生写真、ゲットしたよ!
部屋の天井。
アリスさんを見た。とても綺麗な顔立ち。
元歌手。
バンドのヴォーカルの恋人。
ステージで歌をうたう、スポットライトと拍手喝采。
袖で待っている恋人。
部屋の天井……。
……もしかして。
「ね、アリスさん、歌、うたって」
「え?」
「お願い。アリスさんの歌、聞いてみたい」
多分、この人は……。
「じゃ、ちょっとだけね」
アリスさんは立ち上がった。
月の影から
海の向こうから
私はあなたを
探している
どこにいるの
私はここにいるから
ねぇどこにいるの
私を迎えに来て
私はここにいるから
やはり、昨日夢で歌ったあの歌だ。私が子供の頃に流行った歌。
とても綺麗な声だ。澄んでいるし、高音がすごい伸びる。
歌っているアリスさんは、とてもキラキラしていた。私は拍手した。
「綺麗な声ですね」
「そう? ありがとう。私も久しぶりに歌ったわ」
アリスさんはとても嬉しそうだ。
アリスさん、いや……。
「……薗崎、まりなさん」
彼女は顔が変わった。
「薗崎まりなさんでしょう?」
彼女はしばらく黙っていた。そして重そうに口を開いた。
「……そうよ」
やはりそうだ。
この人は……薗崎まりな。
子供の頃の私が創り出した、空想の人物。
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