嘆きの湖畔

12/17
前へ
/187ページ
次へ
 子供の頃、空想遊びが大好きだった。  ベットに入り、天井を見上げ、目を閉じる。  そうして、空想に浸った。  大好きな、エイジ。  エイジに、会いたい。  どうしたら、会えるかな。  壁に貼ったポスターを見て、思った。彼の歌うバラードを聞いて涙を流した。  今から思うと、かなりのバカだ。  ──追っかけとかしないと、無理なんじゃない?  誰かが言った。あれは……友達のミキちゃん。  ──追っかけ、て何?  ──芸能人を追いかけるんだって。私もよくわかんない。  そんなので、エイジに会えるのかな。かなり疑問に思った。  エイジに会いたかったら、やっぱ自分も歌手にならないと駄目かな。  子供の頃の知恵なんて、そんなもんだな。  私は考えた。  私は歌手。ステージで歌っている。  ピンクの衣装を着て、スポットライトと歓声。  そしてステージの袖に、エイジが待っている。  それから、夜の街へ二人で出掛けて行った。  そして、その歌手の名前は……。  薗崎まりな。  私が付けた名前。  アリスさんは、窓の外を見ていた。 「……いつから、ここに住んでるんですか?」 「分からない。気が付いたらここにいた」  窓から見える、木と湖。曇った空、厚い雲。 「気が付いたらここにいて、もうどれくらいになるのかな。始めは鳥もいたけど、いつの間にかいなくなった。太陽も何年も見てない」  て事は、何年も曇ったまま? 「ここは季節が変わらないの。いつも肌寒くて、暖炉の火を消した事は数回しかないわ」  変わらない季節、変わらない景色。  毎日、なにもかもが薄い、こんな所にいる。  なぜ? 「毎日寒いし、村は遠いし。ここから出るのが嫌だった。たまにエナに行くけど、そこにいると違和感を感じた」  アリスさんは窓まで歩いて行って、空を見上げた。 「ドルク村に行ってもそれは同じだった。周りも、挨拶もろくにしなくなった。でもそこに行かないと生活は出来ない。でもそんな事どうでもよくなった」  なんか、この感じ、どこかで……。  そうだ、今の私だ。        
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加