嘆きの湖畔

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 アリスさんはしばらく暗い湖を見ていた。 「……エナの街へ行っても、誰も私に気付かなかった。誰もかれも、私の事は忘れてしまった。みんな私の事はお構いなしで、話をして盛り上がって……」  アリスさんの声が詰まった。 「エイジの結婚の話をしていた」  私は目を閉じた。  あの人が去って行ったのが、ここではそうなったのだろうか?  現実より残酷だ。 「昔は私の周りには人がいっぱいいたわ。毎日が、笑ってた」  ──ちゃん、今日は何して遊ぶ?  ──ちゃんて、将来タレントとかなれそうだよね! 盛り上げ役だし、明るくなるよ。  あぁそうだ。私の周りにも人がたくさんいた。毎日笑ってた。  夢とか希望がいっぱいだった。 「エイジが、私の所から去って行ったのはどうしてかしらね。いくら考えても分からない」  私も分からなかった。  あの人が、私の所から去って行ったのが分からなかった。頭の中はそれでいっぱいだった。それしかなかった。  突然のさよならに、ただ呆然とするだけだった。  突然の?  いや、違う、前兆はあった。  昔と比べて笑わなくなったのも、態度が変わったのも、私より友達との約束を優先する様になったのも、携帯が繋がらなくなったのも、気が付いていた。  でもすべて、気のせいだと打ち消していた。  アリスさんは下を向いた。  この人は、私が作り出した、幻。  理想を詰め込んだ、幻。
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