嘆きの湖畔

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 ここは、私の世界なんだ。  私が全てに無気力で、荒んでいる。  だから、ここは何もかもが薄い。  私が無気力だから。日々ただ感動も何もなく過ごしているから。  だからここには人も鳥も来ない。季節も変わらない。ずっと寒いままで太陽も出ない。  私の中に、太陽がないから。  アリスさんの横顔を見た。  この人は、私が作り出した理想。  それを、私は忘れてここに閉じ込めた。  アリスさんがここから出れない障害は、私だ。  夢も希望も、何も無くなってしまったのが、この人がここに閉じこもる事で表現された。  大学時代に付き合ってたあの人が去って、私は自分に閉じこもった、たかが失恋で。そんな事は世の中に吐いて捨てる程ある事なのに。  いつまでも、あの人の幻想を求めた。  帰ってくる事なんて無いだろうに、ひたすら待っていた。  あの人の帰りを待たなくなったのは、どの位経ってからだろう?  あの人への想いが薄れても、自分の中に閉じこもっていた。それが当たり前になってしまっていた。  アリスさんも、エイジを待っていたんだろうか?  もし私が、あの人の帰りなんか待たずに、心の中に太陽が現れていたら。  この人はどうしてただろう? まだ歌をうたっていただろうか? 「……世の中なんて物は、自分が変わらないと変わりませんよ」  ゆっくり、噛み締める様に言った。  アリスさんを通して、自分に。 「そんな風に出来てるんです。みんな自分の事で精一杯で、他人の心の闇まで、見える人も気に掛ける人もいません」 「……そうね、私もそうだわ。人の心の中なんて分からない。表面しか見えない」 「始めは、戸惑う事も、立ち止まる事もあります、そんな事は当たり前です。無い方が異常なんです」  自分を変えるのは、難しいかもしれない。  昔の自分に戻るのは難しいかもしれない。私もアリスさんも。 「ありがとう」  アリスさんは私を見て笑った。 「そんな風に言ってくれる人、今まで誰もいなかった。エイジでさえ、言ってくれなかった」  そう言えば、あの人も言わなかった。もう、私の事なんてどうでもよくなってたのかもしれない。
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