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「あなたが道に迷った事、神様に感謝しないとね」
私もこの世界に迷い込まなかったら、きっとこんな事には気付かなかっただろう。
閉じこもっている自分にさえ、気付かなくていたかもしれない。
「あなた、恋人は?」
「いません。私も孤独で、家から出ない引きこもりなんです」
「あら。だったらどっちが早く出来るか競争ね」
「そうですね」
二人で笑った。外見的に私が圧倒的に不利だけど、負けてられない。
「今日は、エナの街に行ってみませんか? うまくいけば歌う場所もいい男も転がってるかもしれませんよ」
するとアリスさんは涙目で笑った。
「そうね。そうしましょうか。では食べたらここを片付けて、エナに行きましょう」
アリスさんはにっこり笑った。
朝食を食べながら、理想の男について語り合った。
さすが私の分身だけあって、趣味は一致していた。
それから私の職場の上司や先輩などの話をして、アリスさんから「働くってやっぱり大変ね」と妙に感心されてしまった。
二人で食器を洗ってから、アリスさんはクローゼットから服を引っ張り出した。
「これ、流行遅れじゃない?」
どことなく、昨日会社で見た、女の子達の服に似ている。流行なんてさっぱり分からないが、似ているからまぁ大丈夫だろう。
私も勉強しなきゃ。服なんて、何年も買ってない。
「ふふ、久しぶりにお化粧するわ」
ドレッサーも何もないので、テーブルに鏡を置き、パタパタと顔にパウダーをかけた。美人が、超美人になっていく。ずるいな。
すると、外で何か音がした。甲高い音。
鳥の声だ。
「あ、鳥が来たわ」
ピピピピピ……。
「何年ぶりかしら。後でパンでもあげよう」
何の鳥だろう? でもよかった、鳥が来たって事はいい方法に向かっているんだろう。
「どう? おかしくない?」
アリスさんはさっきより更に綺麗になって、私に微笑みかけた。
「はい、とっても。街歩いたらみんな振り返りますよ」
「やだ、そんな事言って」
冗談ではなく、絶対振り返ると思う。
こんな美人、そうそういない。
「さ、行きましょ」
そうして、ドアを開けた。
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