頓服

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「さっき、部長に呼ばれてたでしょ」  自販機で缶コーヒーを買っていると、沙織が後ろから声をかけた。 「なんだ聞いてたのか」  沙織は俺の顔を覗き込んだ。  綺麗に手入れした眉、光る肌。きちんと化粧直しした、唇と目元。  さっきの見合い写真の、部長の姪とは比べ物にもならない、整った顔立ち。  ピンクのワンピースがとてもよく似合っている。 「何かしたの?」 「いいや、なんでもないよ」  こいつは、俺の女の中でナンバー1だ。連れて歩くにはもってこい、人に会う時はこいつを連れて行くことにしている。 「今度の日曜日、空いてる?」 「あぁ、他県にドライブでもしようか、レンタカー借りて」 「他県?」 「別にいいけど」  しかし蒸し暑い。  出口が近づくに連れて、湿度が上がる気がする。 「今日って異常気象? なんか梅雨みたいだよね」  沙織と他愛のない話をしながら歩いていくと、知った顔にすれ違った。  本村愛。  前に俺の女だった一人だ。  外見はまあまあだが、センスがイマイチで、遊び慣れしてない感じだった。終電には絶対帰る、オールはなし。ラブホのシステムすら知らなかった。始めはそれもかわいいと思ったが、身持ちが固く、やっとベッドにこぎ着けたがあまりのテクニックの無さに、三ヶ月前に別れた。  幸いバージンではなかったが、初めてではないのだから、もう少し気が効いていてもいいだろうに。  愛は別れを切り出したら、意外な程あっさり受け入れた。こっちが拍子抜けするほど。楽なもんだった。  愛はこっちを見たが、知らぬフリをして通り過ぎた。ありがたい。しつこい女はもう御免だ。  ……誰かさんみたいな。  外に出ると、ムッとして、身体中に水滴がついた様な感触がした。 「わぁすごい、なんか気持ち悪い」  確かに、気持ち悪い。頭痛がしそうだ。  駅まで沙織と向かい、ホームで「日曜日ドライブね」と手を振って別れた。        
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