悪夢のはじまり

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「おはようございます」  会社に着くと、遠藤は早々と机に向かっている。意欲はあるが、要領が悪いため仕事が溜まる。  ふと見ると、沙織が課長のテーブルを拭いていて、目が合った。合ったが挨拶もせず、給湯室に向かった。  どうしたんだ?  よく分からないまま、自分の椅子に座って、パソコンの画面を立ち上げた。  すると沢田さんが、 「おはよう、てかおめでとう」 「は?」  何の事だ? 「いやぁ、先を越されたよ、さすがだな」  ……?  俺の企画、通ったのか?  しかしあれは今日の会議で決まるはずだ。 「おめでとう! やっぱお前にはかなわないな」  遠藤が真正面から声を出す。  何だ?  気が付くと、社員全員で俺を囲んでいる。 「いやぁ、おめでとう!」  みんな口々に言う。 「あの、何かあったんですか?」 「また、そう謙虚な」  呆然としていた。何がそんなにめでたいんだ? 「おめでとうございます、ご結婚」  へ? 「昨日、部長と話してたのは、それだったんですね」  昨日の見合いの話か? 「え、いやあれは、まだ……」  なんでみんな知ってんだ? 部長、話したのか?  すると沙織が俺の前に歩いてきた。 「ご結婚、おめでとうございます」  言葉に詰まった。すると沙織は俺の顔を覗き込んだ。 「お相手、朝早くから会いにきてますよ」 「は?」  会いに来た? 俺に? 会社に来たのか? 「はいどうぞ」  すると、一例に並んでいた社員が、真ん中からきれいに割れた。 「婚約者、大野みどりさん!」  ……え?  すると……。  歩いてくる。  真っ白なウェディングドレスを着て、ベールを被ったみどりが歩いてくる。 「ちょっと待て、俺は……」 「おめでとう!」  全員、拍手した中、みどりが俺に向かって歩いてくる。  動けない。  何がどうなってんだ? 「結婚おめでとう!」  沙織までもが、笑いながら祝福している。  みどりが歩いてくる。  来るな。  逃げ出したい、でも金縛りに合った様に動けない。  みどりが俺の顔に手を回し、自分の顔を近付ける。  やめろ、やめろ、やめろ!
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