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闇の慟哭
ピチャ…ピチャ…ピチャ…。
薄暗い部屋。台所からは絶えず蛇口から滴る水の音。
時計を見ることもできず、俺は自分の手の平をみつめ続けていた。
「俺は…悪くない…」
すでに俺の手は俺の知る手。なのに、俺には違うように見えて仕方ない。
「アイツが…アイツが…悪い…」
カツンカツンと外にある古い鉄筋の階段を誰かが上がる度、俺の心臓はドクドクとスピードを早めた。
夏。
俺の何もかもを変えてしまおうとする夏が終わる…。
この夏が終われば、俺は元に戻れる。そんな理屈もない期待だけを糧に、カーテンも開けられない俺は息を殺した。
俺の何かを狂わせたのは…いつだったろう。
いつ、誰が狂わせた?
もしかしたら、生まれた時から狂っていたのか?
瞼を閉じて堂々巡りに言葉を続ける。
手に残る忌々しい感触を手放すためには、何が必要なんだ?
教えてくれ。
誰でもいい。教えてくれよ!!
俺はこれからどうなるんだよ?
俺は、これから、どうすりゃいいんだよ…?
狂いそうだよ…。
狂いせうなんだ…。
なぁ?俺は、狂いそうなのか?
それとも、元から狂ってたっていうのか?
分かんねぇ…。
分からないんだよ…。
分からない…分からない、分からない分からない!!
あぁ…なんなんだよ一体。
俺が何をしたっていうんだよ?
何を…した…?
したんだよ…な。ああ、したんだ…。
だから、これは、その代償なんだな。
今の俺は…俺がした事の…代償だ。
そして俺はフラリと立ち上がる。
行かなきゃ。
そう、俺は行かなきゃならない。
足を引きずり、力の入らない体で鏡を覗くと、そこには痩せてみすぼらしい男が不潔極まりない姿で、ニヤリと黄色い歯をして笑っていた。
「っ?!」
誰だ?!今のは誰だよ!!知らない…俺はあんな奴…知らない!!俺に…俺につきまとうな!出て行け…出て行けよ!!
俺は手近にあった物を掴み鏡に叩きつけた。
ガシャーン!!
派手な音を立て、鏡は大小さまざまに砕かれる。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
これで、あの気味の悪い男はいなくなった。
そう安心して床に目が行くと、そこに散らばる鏡に、大小さまざまに不気味な男が笑っていた。
「うわああああああ!!」
叫びながら、俺は殴った。何度も何度も何度も、ニヤニヤする男を殴った。
なのに、殴った俺の拳が傷だらけになり、血が飛び散る。
こうして、次に目覚めるまで俺は、闇の中で泣き続けるしかなかった…。
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