誰も私は愛さない

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 少し考えるようにして、弾き語りは首を横に振った。 練習じゃない? なら…なに? こんな所でライブ? …それはないか。 「じゃあ…」 じゃあ何してるんですか?と尋ねようとした私の顔に、何かが落ちてくる。 ポツリ…ポツリ…ポツ…ポツ…ポツポツポツ…。 「あ…」 雨…雨が降ってきちゃった?! どうしよ!!傘なんて持ってないのに!!  慌ててカバンを頭に乗せてみる。 ダメ!頭は濡れないけど制服がぁ!! もう!今日の天気予報、雨なんて言ってないのに!  少しずつ本格的に降り始める雨。 私はカバンを頭に乗せて今朝の天気予報の悪口を心で叫ぶ。 すると、ふっと暗くなり雨がやんだ。 「大丈夫?」 何事かしら?とカバンを頭から下ろすと、真横に弾き語りが立っていた。 近くに立つと背が高い…。 少し見上げると、その顔より上で私を雨から守ってる物をみつけた。 それは黒くて大きな、少し変な形をした物。 「傘…ないけど」 弾き語りはまた照れたような顔で微笑んだ。 ドキッ…。 …え?今の『ドキッ』って…なに? それより、これ…私を雨から守ってくれてるのって、ギターのケースよね…? 「え?…あ!ギター!ギター濡れますよ?!」 弾き語りは自分のギターケースを私の頭の上に持ち上げて、私が濡れないようにしていた。 そうしている自分は雨に打たれるだけ打たれている。 「そ、それに、雨に濡れちゃいますよ?!」 私が慌ててるのに、弾き語り本人は微笑むばかり。 「ギターはケースに入れてあるから大丈夫」 「そうじゃなくて…あの…自分が濡れますよ?!」 「うん。もう濡れてるからいいよ」 へ、変な人っ?! でも…なんだか、うん、まんざら悪い気持ちじゃないわね…。 「あ、ありがとう…ございます」 申し訳ないのと嬉しい気持ちでお礼を言うと「どういたしまして」なんて、また微笑む。 ドキッ…。 だ、だから、この『ドキッ』ってなによ?! 「ここじゃ濡れるから、あっち、雨宿りできるから」 もう十分に濡れてる弾き語りは目で『あっち』を指す。 「は、はい…」 思わず自分でも恥ずかしいくらい可愛く答えてしまった。  路地裏の奥には、ろくに雨宿りできる場所がない。 弾き語りが指した場所は、そのままより多少はマシなビルの裏口にある屋根だった。 二人並んでしまうと狭い。 狭いから少し体が触れてしまう。 でも…どうしてかな?少しも嫌な気がしない。 普通なら、知らない男となんて嫌なのに。
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