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アブラ蝉がウチの壁に止まったんかジージージージーうるさい。
やる事ないし、捕まえたろか?
いや…パッチ姿で蝉捕まえに外行くんは…。
「ただいま~」
玄関のほうから声がして、わしは時計を眺めた。
やっとこさアイが帰ってきよった。って、七時…過ぎとるやん。
「あ、オトン、お帰り」
あ、オトンお帰りとちゃうわ…。七時、過ぎとるで。
「あん」
腹ん中じゃ帰り遅いでと言いたい…わし。
せやけど言えん…。
「お土産、あるん?」
鞄を部屋の隅に置きっぱなしでアイがキョロキョロしよる。
せやから、わしは自分を指差してみた。
「ああ、お腹空いたわ。オカン~!ご飯、まだあ?」
「……」
見て見ぬふりしてアイは台所に行ってもうた。
「……」
やっぱり、こないな絵に書いたようなパッチ姿のオッサンが土産やと…嫌かいな。
一人ショゲとると、母ちゃんとアイがテーブルに次々と料理を持ってきよる。
テーブル言うても冬はコタツになる小さいやつ。そこに、肉じゃが、ホッケ、刺身、サラダが並べられていく。
どれも、わしの好きなやつばっかや。
サラダ以外は。
「これな、コブサラダっちゅうねんで?」
アイがサラダの説明してくれよったけど、わしからしたらサラダはサラダでしかあらへん。
「…何のコブ入っとんや?」
「……」
それは素朴な質問やった。
せやのにアイは苦笑いだけして台所に行ってしもうた。
…何のコブ入っとんやろ…コブ…コブ付いとる動物っちゅうたら…ラクダ…ま、まさかラクダ入っとんのか?!
「ラクダ入っとらへんしな?」
味噌汁の椀を盆に乗せてアイが念のためみたいに言いよった。
「…良かったわ…それ聞いて一安心や…」
「え?!ホンマにラクダ入っとる思うたんかいな?!…ウチ、冗談言うたつもりやったのに…」
「……」
さすが親子。以心伝心や。…そう思うとったらアイのは冗談やったらしい。
結局、コブサラダの説明もなく三人してテーブル囲む。
「ほな、いただきます」
「いただきまーす!…あ」
手を合わせたまま急にアイはわしに頭を下げよる。
「おかえりなさい…言うん忘れとった」
「え、ええわいな、もう!」
改まって言われたら変な感じや。
「は、はよ食べようや?」
わしは慌てて肉じゃがつまむ。それにしても、こない暑いのに肉じゃがってのも…。
「嫌やったら食べんでええよ」
ハシが止まるわしに母ちゃんが無表情に言う。
以心伝心…せんでええのに…。
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