おっちゃんの唄

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 晩飯の後に土産の菓子つまみながら他愛ない話する。 とは言うても、そのほとんどがアイの受験の話や。 「勉強、ちゃんとやってんのかいな?」 「やってるで。今日かて友達ん家でやって来たやん」 「そか。そやけど、あと半年もないで」 「そやな…。けど、そないに賢い学校やないし大丈夫やろと思う」 確か年末年始に帰って来た時も似たよな話しとったな。 「先生かて大丈夫言うてたし」 菓子ツマミながら携帯電話いじるアイ。なんや行儀の悪い…。 「……」 これが今時の中学生、高校生なんは分かっとる。 誰と何をやっとんのか…分からんのが怖いわ。 「彼氏とかできたんか?」 思わずアイに尋ねると、キョトンとした顔で携帯いじる手を止める。 「んなワケあらへんやん。…なんで?」 そりゃそうや。受験生が彼氏やとか彼女やとか言うてる暇あらへん。 せやけど、受験生やからこそ、逆に卒業する前にぃっちゅうのもあるやろ。 「いんや…別に」 まぁ、おらへんのやったらええ。 「…変なオトンやな」 首を傾げて、また携帯いじるアイ。こりゃ惚れた腫れたの話はまだまだ先みたいやな。  あっちであんちゃんやカナエちゃんらと出会ってから、なんや、わし変わってもうたみたいやわ。 それまでは見た目どおりのオッサンやったし、アイとしても単なるオトンやった。 せやけど、あんちゃんに言われてギターとか買うて、昔思い出しとったら…アイがこれから…その、なんや、あー…青春…ん…臭い言葉似合わんけど、そういう年頃になるやなぁ…そう思えてならん。 わしには言わんけど、アイかて夢っちゅうのあるやろし、もしかすると好きな男おるかも知れん。 それに友達かて、これから違う高校に行きよったら離れ離れになるやろ。 新しい友達も出来るやろ。 なんちゅうか…青春やな…。 わしかて、昔はそん中おったんやけどな。 「……」 アイがこれから青春っちゅうやつの真ん中に行くんやったら…わし、何かできんかいな? 何もできんでも、何か言えんやろか? 「?…なに?オトン?」 一人考えとったらアイが気付きよった。 「な、なんでもあらへん」 「?」 ゴロリと横なって、どうでもええクイズ番組見とるふりしながら、わしはちょっとケツ上げる。 …ブッ! 「わっ?!オトン、何すんの?!クッサイやんっ?!」 「出るもんは、しゃあない」 大慌てのアイが逃げて行きよる。 いや…別に意味はないで。ホンマ、出るもんはしゃあないわ。
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