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半年ぶりに我が家で寝る。
畳に布団敷いて、天井にぶら下がっとるオレンジ色の光を眺める。
「……」
疲れとるはずやのに、寝付きが悪い。
「なに考えとるんです?」
隣の布団から母ちゃんが尋ねてきよる。
「ん…あ、別になんでもあらへん」
「……」
返事のない時は、たいてい母ちゃんに嘘がバレとる時や。
せやから、わしはオレンジ色見ながら正直に話すことにした。
「あと何年、アイはウチにおるんやろな」
「なにを急に言いますの?…高校、卒業するまではいるやろ?」
「…ん、そやな」
「あぁ…でも、アイかて、いつかは出て行きますよ」
「そやな…」
「…結婚でけへんかったら、それはそれで問題、違いますか?」
「はは…そやな。…アイかて、好きな男できて、結婚するやろ…アイかて、ずっと子供やない。…せやけど…」
「…寂しん…ですか?」
瞼を閉じると、アイの花嫁姿が浮かぶ。
「そりゃそうや。まぁ、まだまだ先の話やろうけど、な」
「あんた…」
できるなら、カナエちゃんらみたいな目には合わんでほしい。
できるなら、あんちゃんみたいな男をみつけてほしい。
まだ高校にも受かっとらんちゅうのに、わしはアイの将来が心配でならん。
今は友達と面白う遊んどったらええ。せやけど、いつかは…大人になる。
「…そんなに心配ですか?」
母ちゃんには、かなわん。わしの考えなんか、ホンマ、お見通しやで。
「当たり前やろ」
「……」
もしも受験に失敗したら…それが元でグレたりせんか…悪い男に騙されへんか…色んな心配ある。
「…大丈夫」
「……」
母ちゃんが寝返りしてポツリともらす。
「あんたとウチの娘ですよ?大丈夫。…信じてあげるんも、親、ちゃいますか?」
「…せや、な。…ん。なんか今日は疲れたわ。…ほんじゃ、おやすみ」
「…はい。おやすみなさい」
静かになると、二階から微かに音楽が聞こえてきよる。
アイの部屋からや。
何の曲かは分からん。
そうなんやな…アイの歳くらいやったら、音楽は身近なもんなんや。
わしかて、そうやった。
…明日、ギターとか届いたら母ちゃんとアイ、なんて言うやろ?
母ちゃんもアイも知らんからなぁ。
わしが昔、バンドやっとった事、ギター弾ける事、いっぺんも喋った事あらへんし。
明日が楽しみや。
まどろむ頭ん中、わしは母ちゃんとアイが驚くのを想像しながら、久しぶりの我が家で眠りについた。
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