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「しゃーないなぁ」
とか言いながら、わしは荷物をほどいてアンプ取り出す。
我が家には楽器はあらへん。
あってもアイが学校で使うとる笛くらいや。
「こっから音、出るんやろ?」
アンプが物珍しいんか、アイはちっこい黒い箱を指差す。
「コンセント、差してな」
わしがプラグを渡すと、アイは何も言わんと壁にあるコンセントに急ぎよる。
「あんた…ホンマに弾けるん?」
未だに信じられへん母ちゃんはケースから出したレスポール見て『無駄な買いモン』とばかりに溜め息つきよる。
「……」
苦笑いしながら母ちゃんの質問に答えとると、アイが「差したで~!」と手を上げる。
わしはシールドをギターとアンプに突っ込んで、適当にツマミいじる。
「なんや、ギター似合わんなぁ」
そんなわしにアイが笑いながら携帯電話を取り出しよった。
パシャッ!
「な、なにしとんねん?!」
「記念や、記念!写真にして残しとくんや」
「そないなもん撮らんでええ!だいたい…」
わし、パッチ姿やで…。
そや…浮かれてて気ぃつかんかったけど、わし、パッチ姿でギターかろうとんやん。
「……」
あまりの不細工な格好に我ながら冷や汗もんや。
「…着替えたら、どうですん?」
母ちゃんが白い目で促す。
「そ…そや、な」
わしはギターを下ろして、そそくさと着替えに走った。
着替えっちゅうても、まるで今からゴルフ行くみたいな格好しかでけへん。
「…似合わんなぁ」
アイがそれを見て、また笑いよる。
「ほっとけ!革ジャンとか暑くて着てられへんわ!」
「…オトン、革ジャン持っとった?」
「…持っとらへんけどな…」
とりあえずギターをからい直して、アンプの電源入れる。
「チューニングすから、ちょっと待ちや」
そう言うて音叉を用意したらアイが「チューニングやって!チューニングやで?オトンがチューニングやって!」とゲラゲラ笑いよる。
何がおかしいんやろ…?
「…チューニングって…なんやの?」
どうやら母ちゃんはチューニングさえ分かっとらんみたいや。
「…さぁ」
って、なんやアイも分かっとらへんのかいな?!
「……」
そりゃ、まぁ、ギター間近で見るん初めてやろしなぁ…。
そんなこんなでギターのチューニングも済ませ、アンプのボリュームいじる。
そのノイズにアイはやんやと手を叩く。
母ちゃんは「うるさぁせんようにな?」と、いたって冷静。
こりゃ、あんま期待されてへんみたいやな…。
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