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アイに言われるまま携帯電話を一生懸命にいじる。
ホンマに一生懸命に、や。
「……」
どうにかして、やっとこさアイが送ってくれよったメールと写真を見ることはできた。
できたんやけど…。
わしは携帯に映し出された写真を見て言葉を失った。
「どや?うまく撮れとるやろ?」
ニヤリとするアイ。
「どんなん撮れたんです?」
おもむろに母ちゃんが携帯電話を覗きこみよる。が、それ見て絶句。
そこにはパッチ姿でギター持っとるけったいなオッサンがピースサインしとる…。
「……」
「……」
母ちゃんと二人してあんぐりしとったら、アイが「ええ記念やろ?」と笑う。
「歌うとる時のは、ないんか?」
「ないで」
即答かいな。
こないな…こないな写真が記念…なんちゅうことやねん。
ホンマやったら、もう少しはマシな写真を記念にするやろ。
なんちゅう娘や…。
「まだふてくされてんの?」
当たり前や。
わし、練習したんやで。
今日、二人に聞かせるん楽しみやったんやで。
せやのに…せやのに、その記念がパッチ姿の写真っちゅうのは納得でけへん。
「ええねん…わし、どうせ、けったいなオッサンやし…」
「ホンマに怒ってんの?しゃあないやん。歌うとる時、忘れとったんやし」
「…だから、ええわ。もう」
別に怒っとらへんのやけど…カッコ悪い写真、どないしたらええねんやろな…。
「また今度な?今度はちゃんと撮るさかい」
手を合わせるアイ。
それを見て、わしはちょっとだけ嬉しかった。
また、歌うていいんやな。
また、今度帰って来た時、歌うていいっちゅうことやな。
「そなら、次までにレパートリー増やしとくわ」
「…また歌いますの?」
って母ちゃんは反対なんかいな?!
「オカン、ええやん!ウチは嬉しいで?単なるオッサンのオトンより、ギター弾けるオトンのほうがええわ」
うぅ…さすがアイや…。よう分かっとるんやんけ。
「ホンマやで。ウチ、オトンのこと単なるオッサンやと、ずーっと思うてたんやけど、ギター弾けるんて凄いやん!太ってるしハゲとるけど、英語の歌、歌えるんやで?凄いやん!」
「……」
…なんや素直に喜べんのは…なんでやろ。
ふと携帯電話に滞在する『パッチ姿でギター片手にピースする小太りでハゲたオッサン』を眺めながら、わしは深ぁい深ぁい溜め息をもらした。
「って、なんでオトン落ち込んどるん?」
はぁ…。さすが、わしの娘、やで…。
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