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“出来”が良すぎる身内がいると“出来ない”自分はいつも比較される。
義高もその経験者の1人だったから彼女の気持ちはよく解った。
「何を話しても‥何をやっても…全部“お父様がああだから”“お母様がああだから”って‥誰にも私を受け入れてもらえなくて───気が付いたら話さなくなっていました…」
そう言って彼女は義高がとった自分のメガネに触れた。
「これ…度が入ってないんです‥母と似たこの顔を変えてくれるのではないかと…つけ始めました‥髪も父譲りだと言われたくなくて…伸ばし続けて‥唯一私が出来るみつ編みをして隠して…私は人に関わるのをやめていたんです‥父と母の名前が出れば…私はちっぽけな存在になってしまう‥そうして今まで過ごしていましたが…ある時出会ったんです───彼に‥」
そう言って彼女は花のような今まで見た事のない柔らかな微笑みを見せた。―――それは義高をずきん、と胸が痛む気持ちにさせたが義高は何でもない顔で彼女の話に耳を傾けながら彼女の髪を整えていた。
「彼は…あの部屋で毎日遅くまで残って‥何かを一生懸命やっているんです‥私は…門限の時間までずっとここにいて‥彼の様子を見てるんです。初めて会話をしたのは1年生の夏休みで…私がちょっと貧血を起こしてしまって───廊下で蹲っていたら‥“何やってるんだ?”って。凄く冷静で冷たい口調だったけど…彼はちゃんと‥保健室まで連れてってくれました。しかも“キミよく図書室にいるよね?”って話しかけてくれて…私の事知っててくれたんだって嬉しくて‥それから彼が好きなんだと自覚しました…」
「努力家な男だな‥真面目でイイヤツだな?」
「はいっ…なんていったって‥生徒会の方ですから…いつもお忙しそうですよ‥?」
「ふーん?‥あ。こんな感じでどうだ?」
ゴムで少し上の方の髪を結んで彼女の顔がはっきり見えるようにしてみた。
彼女は自分の鏡を見て少し恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうに“別人みたいです”と小さく笑った。
(生徒会の人、か…ならあんまりメイクはしない方がいいだろうな───)
「辻くん…もう‥予鈴が鳴りますよ?」
「―――じゃあ続きは明日な?」
「はいっ‥」
もちろんこの後“いばら姫”の変わりっぷりにクラス中が騒然としたのは言うまでもない。
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