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(ヤバい…つい夢中で時間の事すっかり忘れてた‥母さん怒ってんだろうな───)
空を見上げると、すっかり暗くなってきている。流石は冬の真っ盛り。5時半を過ぎた頃だというのにまるで夜のような暗さである。
辻義高(つじよしたか)は鞄を置いたままの教室へと急いでいた。今日は友達と昼休みにサッカーの話で盛り上がってしまい、そのまま放課後に体育の授業の気分で友達やクラスメートとサッカーをして遊んでいたのだ。
最初の頃はクラスの女子や興味本位で見に来ていた他学年の人等が大勢いたのだが、気付いたら真っ暗でしかもギャラリーもまばらになっていた。
―――どうにも体を動かしてないと落ち着かないからと言ってハメを外し過ぎた、と義高は後悔した。
「ん?」
ふと校内に入ると明るい教室が1つだけある事に気付いた。
「まさか…誰か残ってんのか?」
最終下校時刻はもうとっくに過ぎたハズ。誰が残ってるのかと好奇心が働いて義高はその教室を覗きに行ってみた。
「ウソ、だろ…」
しかし予想外の人物がいて義高は思わずギョッとしてしまった。
覗いた教室は図書室。電気だけがついていて、人の気配はまったくなかったのだが窓際の一番初めにそれはいた。
「───紅玉白雪、だよな?」
義高はその人物の傍まで来て名前を呟いた。
紅玉白雪(こうぎょくしらゆき)―――通称、“いばら姫”と呼ばれている彼女がそこにいたのだ。
義高と同じクラスの少女で、真っ黒な長い髪の毛を緩く2つにみつ編みした髪型でいつもうつ向いてるイメージしか義高にはなかった。
義高は彼女と仲がいいわけではなく、会話という会話をした事がない。だからこうやって面と向かって彼女の顔を見るのは初めてだったのだ。
(そもそも何で“いばら姫”って呼ばれてるのかも知らな────っ?!)
彼女の前の席に座って正面に来ると義高の思考は止まった。
何故なら彼女は目を閉じて涙を流していたのだ。目を閉じて、ひたすらに涙を流していた。“泣く”という行動をしてただけの彼女を見て、義高の中に衝撃が走った。
(すっげー…綺麗な泣き方‥)
自分の心臓が高鳴っていくのがわかる。彼女はどうやら眠っているようで、何だか起こすのが偲びなくて義高はそのまま静かに図書室を出た───
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