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義高が疑問を投げ掛けると彼女は首を縦に振るか、横に振るかで返答する。
まるで人形と話しているようだったが、義高は楽しんでいた。
ようやく会話に慣れてきた所で義高は思い切って聞いてみた。
「なぁ…昨日もここにいたよな?」
いきなり過ぎたかと焦ったが、彼女はちゃんと反応を示した。
「…ここ‥反対側の校舎の教室が…見えますから‥」
―――初めて声を聞いた。小さくて辿々しい声だったが、義高はそれだけで何だか嬉しかった。
「あっちの校舎にもしかして…好きな人いた、とか?」
冗談めかして言ってみたら彼女の顔はみるみる内に林檎のように赤くなっていった。
「もしかして…図星?」
「す、好きな人…というか‥憧れてるというか…わ、私には‥そんな事…言える資格‥ありませんし…」
「好きなら好きって言っていいと思うぜ?ほら‥そういうのに資格って必要ねぇだろ?それに───俺も‥自分がどうかは解らないけど資格だとかそういうモノは必要ないってわかってるし…」
もどかしい思いでいる自分よりも弱気になっている彼女を何とか勇気づけたかった。
義高はそう思って彼女を無意識にじっと見て話していた。
「あの…ありがとう‥ございます…」
「何が?」
「辻くんなりに…励まして‥くれたんですよね…?そのお気持ちが…凄く‥嬉しいです…」
少し頬を赤らめながら彼女は微笑んでいた。
───やはり何だかほっておけない。
「私‥いつも…ここから‥あの人が仕事をしてる所を…見ているだけで満足、なんです‥私は見た目もこう、ですし…覚えられても‥ないと思いますから…」
「───やる前から諦めんなよ」
「はい…?」
「お前、まだ何の努力もしてねぇだろ?何もやらないままで“満足”って言うなよ、やりきってから満足って言えよ―――俺が協力するから!」
いつの間にか義高は彼女の手を握って力んでいた。
「あ、あの…?」
「お前がホントに満足だって思えるように俺が協力するって言ったんだよ…迷惑か?」
「め、迷惑だなんて‥う、嬉しいです…」
「よし、決まり!───明日から俺も昼休みはここに来るからな?」
そう言い切ると義高はじゃあ明日楽しみにな?と告げて図書室を出ていった。
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