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自分の発言に今更ながら義高は照れていた。
「あの…髪、頼んでもいいですか‥?そ、その時にお話…しますから‥」
恥ずかしそうに笑って彼女は義高を見上げた。
義高はこくんと頷いて彼女の後ろに回って髪に振れた。
「髪…綺麗だな?」
「そうですか‥?普通に洗っているだけ、なんですけど…」
「それだけでこんなに綺麗に保てるのはスゲーよ、これはただ縛るより下ろしたままアレンジした方がいいだろうな…」
「ずいぶん‥お詳しいんですね?もしかして凄く勉強されました…?」
「いや、俺のバイト先が美容院でさ?まだ下っぱなんだけど‥見て覚えた」
「アルバイトが…美容院‥?」
「知り合いのおばさんが経営してる店なんだ。だから割と優遇されてるんだ…バイトの内容も掃除とか、シャンプーとかリンスとかの用意とかそういう雑用だし」
「凄いです…私は───アルバイトなんて‥した事ないですから…」
彼女の声色がだんだんと沈んでいって、義高は彼女の髪をとかしながら悩んだ。
「私の家は───作法とかマナーとか‥そういうモノに厳しい家で…門限とかあるんですよ?」
「そういやお前の家って‥すっげーでかい城みたいな家だって聞いたけど…ホントか?」
「え?まさか…そんな事‥ないです。私の家は‥普通の茶道家の家です。父は茶道の家元で…母は和服デザイナーをやってますけど‥?」
「だ、だよな…悪い、変な事聞いて」
「いえ‥私が人との関わりを避けているから…人に聞かれたんですよね‥?」
「ああ…話してくんないだろうな、って思ってたから‥」
噂とは事実も確かめないで膨れ上がるモノだと今ここで知った。
彼女はこんなにも純粋で、素直な子で自分に話してくれようとしているのに。何で根も葉もない噂なんか信じてしまったんだろうか。
「辻くんはやっぱり…優しい方ですね?‥私、人と話すのが…怖いんです‥」
「怖い?」
「はい…私は小さい頃は‥父と母の大きすぎる期待と…周りの大人達の妬みとか‥羨望の中で…育ってきました‥物心ついた時から…私の家は‥失敗は許されない、という空気に包まれていて…何をやっても私だと───“紅玉白雪”だと…見てもらえなかったんです‥」
その言葉が何を意味するのか。義高には痛いほどに伝わってきた。
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