ランチパック

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「ママこれ買って!」  と娘が手にしているのはランチパック。ここはコンビニのパン売り場だ。いつもの事だが里美は娘からパンを取り上げ、棚に戻しこう言う。 「普通の食パンを買って作ってあげるから」と、勿論今日も却下する筈だった。          しかし何故かこの日は気にかかり娘に聞いた。「みいちゃん何味が欲しいの?」すると娘は悩みながら、パンの棚を指している。里美もしゃがんで見てみると、なるほどこれは悩んで当然だろう。見た事もない味が沢山並んでいるのだから。昔はチョコとピーナッツクリームしかなかったのになあ、と思いながら見ているうちに懐かしい事を思い出していた。          「ママこれ買って!!」得意気にランチパックを手にするのは、幼い日の里美だ。  母は里美の頭を撫でながら笑顔で言う。「食パンで作ってあげるから」と。それでも負けじと駄々をこねて買って貰っていたのだった。そんな優しい母が里美は大好きだった。自分もこんな母になりたいと、いつも思っていた。          「 ――マ、ママ!!」娘に呼ばれ気が付いた。すっかり思い出の中に入り込んでいた。思い出はそれでも止まる事なく、次から次へと流れ行く思い出で頭は埋め尽くされていた。  母が大好きだった里美には思い出の中は、時として辛い空間になる。  そんな時頭に声が響いた。「親の気持ちは親にならないと分からないのよ」優しく懐かしい声が。同時に娘に呼ばれていた。里美が現実に戻った時少し目頭が熱くなっているのを感じた。  コンビニでの一瞬がとてもとても長い時間に感じた。           不思議そうな顔をしている娘に、少し涙目の笑顔を作り里美は言った。 「ランチパック買って行こうか!!」大人になり親になり、沢山の大切な物を失い。気持ち迄もが荒んでしまっていた自分が無性に悲しくなった。           コンビニで会計を済ませ、手を繋いで帰る。勿論娘はご機嫌、なんとなく里美も晴れた気分だった。  買い物袋にはそう、新しい味と古い味の二個のランチパックが入っていた。
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