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彼女の哀しみに私は気づけませんでした。
彼女の笑顔が偽りであることなど私には分かりませんでした。
なぜ彼女がそうせざるを選なかったのか、私には見当も付きませんでした。
優しく、人の気持ちを考え、いつでも明るく、誰にでも分け隔てなく接していたのに。
勤勉に励み、常に謙虚で、礼儀正しく、ですが自分の考えをちゃんと持っている人だったのに。
身体はすらりと美しく、容姿端麗とは彼女のことでしょう。
その彼女の笑顔に一体何人の人が救われたでしょうか、私には分かりません。
完璧とは彼女のことでしょう、私はそう思っていました。
そう信じて疑わなかったのです。
あの頃の私には分かりませんでした。
完璧な人などいないことを。
そして彼女も、完璧ではないことを。
皆も気づきませんでした、彼女が追い込まれていたことに。
完璧だと思い込んでいた彼女に悩みがあることなど、誰が予想出来たでしょうか。
彼女は一度として隙を見せませんでした。
笑顔を一時も絶やしませんでした、涙も見せませんでした。
一番近くにいたにも関わらず、私には気づけませんでした。
そんな彼女を、静かに堕ちていく彼女を、一体誰が救えたでしょう。
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