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「レモンとミルク、どちらにいたしますか?」
優しい微笑みで声をかけてくれるのは、『メイドさん』スタイルの美女。
紺のフレアワンピースに白のレースのエプロンをつけた少女は、黒くつややかなストレートの長い髪と、雪のように白い肌を持っていた。おまけに、長い睫毛が瞳を際立たせ、薔薇色の頬と唇が、形容しがたいほど、完璧な美人を作り上げている。
「あ、じゃ、ミルクを」
美人に免疫などない俺は、視線をそらしつつ、そう答えるのが精一杯。
メイドさんは、優しい笑みのままで、俺のティーカップにミルクを注いでくれた。
ちなみに、今、俺がいるのは陽の光が穏やかに射す、一般にサンテラスと言われる場所だ。
がっしりとした木製のテーブルの上には、食器に疎いどころか、興味すらない俺でも、一目で高いとわかるティーセット。
まったくもって、本来の俺には程遠い世界。
「平井(ひらい)、そんなに緊張するな。今日は単なる事前面接だ」
俺の隣に座る少女は、無愛想に言葉を吐いて、慣れた手つきでティーカップを手に取った。
漆黒のショートボブに切れ長の瞳。引き締まった体つきと小麦色の肌は、運動系。
もう少し人当たり良い笑顔を見せれば、健康的美少女降臨、というところだ。
とはいえ、彼女とクラスメートとなって二ヶ月、そんな笑顔を見たことなどないのだけれど。
「天川(あまかわ)、お前がお嬢様なんて、知らなかった」
昼休み、弁当を一人で食べても平気でいるような、ちょっと変わった女だとは、思っていたが。
天川は表情一つ変えることなく言い放つ。
「自分でバラして、何の得がある」
まあな。
非常に合理的な彼女の物言いに、苦笑した。
「平井こそ、いいのか?」
彼女の瞳が鋭く光る。
「事前面接でOKが出れば、お前は『ゲーム』に参加出来る。勝てば金も権力も手に入るが、負ければお前自身の存在が危うくなる。それでも、参加するか?」
これも何度目かの問いになる。
俺の答えは同じ。
「ああ。俺は勝つ」
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