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勝って金を手に入れなければならない。
ティーカップを持つ手が微妙に震えるのを、自分でも感じる。
どうしても、金を手に入れなくてはいけない。この身に変えても手に入れる。
「お客様」
優しい声とともに、差し出されたおしぼり。
顔を上げると、メイドさんが心配そうな表情で見下ろしていた。
「少し落ち着かれた方がよろしいかと…」
「あ、ありがとう」
彼女と視線が合って、思わずドギマギ。ひったくるようにおしぼりを手にすると、そのまま顔を覆った。
真っ赤になった顔を隠すために。
クスクスと笑い声がして、恐る恐るおしぼりを外すと、笑っていたのは天川だった。
「な、なんだよ」
まさか、こいつに笑われるとは…というより、声をたてて笑う奴とは思っていなかった。
口の端をちょっと上げて『フッ』ていうイメージが強い奴だし。
「平井の好みが双海(ふたみ)だとは、予想外だったな」
双海…メイドさんはそういう名前だったのか、って「そんなんじゃない!」
「双海は美人だし、料理も上手いし、嫁にするにはもって来いだぞ」
へー、料理も上手いんだ…って「だから、そんなんじゃない!!」
「海晴(みはる)さん、お客様が困ってらっしゃいますわ」
みはる。
「え?天川、『みはる』って名前なのか?」
「海が晴れる、で海晴。似合わないと思っているだろう。ちなみに、そっちは、双葉の海で双海」
淡々と答える口調の裏に、どす黒いものを感じたので、俺は笑って誤魔化した。
いや、なんか、普通の名前過ぎて、イメージと違うっていうか。
思ったことを口にすると、多分俺の命の存在に関わりそうだ、ここは黙っていることが賢明と、沈黙に徹することにした。
俺を見る天川の視線に、凄まじい圧力を肌で感じ、思わず知らず額から汗が吹き出て、手にしたおしぼりで汗を拭いたところで、扉が開く音がした。
ギーッと鈍く響いて、開いた扉の向うから現れたのは、背筋がピンッと伸びた、白髪と厳しい眼光を持つ電動車椅子に乗った老人。
「海晴が連れてきたのは、そやつか」
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