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庭を横切り、入口の扉を開く。
「ただいま」
「なお兄、おかえりなさーい」「なおくん、遅かったね」「にいちゃ、おかえり」
いろんな『おかえり』を言いながら、奥の部屋から、だーっと駆けてくるちびっ子達。
この園には、0歳から15歳の俺までの14名が生活している。
「今日の配膳当番、なお兄だろ。遅い」
最近、妙にしっかりしてきた六年生の達也(たつや)。
「夕食の時間まで、まだもう少しあるだろ。これでも急いで帰ってきたんだ、許せ」
「俺達はいいけどー」
意味ありげに達也が見やった先は、『事務所』のプレートが貼り付けられた扉だった。
「親父さんがね、『尚哉が帰ってきたら、すぐに来るように言え』って」
「なにかやったの?」
興味津々のちびっ子達の視線に、たじたじになりながら、何かやったか?と頭をひねる。
帰ってくるのは遅くなった。が、門限の範囲内、怒られる筋合いはないだろうし。
「さっさと行った方がいいよ」
達也の忠告を素直に受けて、「じゃ、荷物を置いたら、親父さんのところに行くよ」
そう言って、自室へと向かうと、部屋の入口に赤ん坊の洋(ひろし)を抱いた夏樹(なつき)が立っていた。
俺と同学年の彼女は、開口一番。
「あのね、なおくんの先生から電話が掛かってきてね…」
親父さんの用件の見当がついた。
「黙っててくれって、頼んだのに…」
どう言い訳したものか、困ったもんだと眉根を寄せた俺を、夏樹が心配そうに覗き込む。
「なおくん」「悪いけど、親父さんに呼ばれてるんだ。ごめん」
まだ何か言いたそうな夏樹を遮り、俺は荷物を扉から中へ投げ込むと、事務所へ急いだ。
夏樹が言いたいことは、きっと親父さんと同じこと。
「なんか、悪役気分だぁ…」
小声で呟いて、目の前の扉を見上げた。
「尚哉、帰りました」
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