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扉を開けるなり、飛んできたのは冷たい声。
「高校へ進学しないなんて、勝手に決めてきたそうだな」
「あ、あはは…」背中に冷や汗が一筋。
やばい、冷静に怒っている。
40代半ばで14人の子持ち状態の親父さん、人様に迷惑をかけたり、人道を外さない限りは、余り怒る人物ではない。なので、正直「進学しない」という選択に対し、ここまで怒りを表されるとは思ってもみなかった。
「先生が『公立は大丈夫、奨学金制度のある私立だって大丈夫なのに』って」
それにな。親父さんが額に手を当てて。
「夏樹も進学しない、と言い出した」
「それはダメだ!」
俺は思わず叫んだ。
「あいつには看護士になる夢がある、進学しなきゃ、不利だ」
「お前は夢がないから、進学しないのか」
成る程。親父さんは大きな溜め息をついた。
「まったく、お前は…」
一気に疲れた声になった親父さんに、俺は俯くしかなかった。
それ以外にも、理由はあるんだ。
園の返済の目途が立たない借金は、一千万以上になっていて、今年度中に返せなければ、来年度には閉鎖。今いる俺達は、バラバラにされ、他の施設へ移されてしまう。
俺に収入があれば、全員は無理だけど、何人かは同じ場所で生活できるかも知れない。そんなあがきにも似た考えは甘いかな。
「お前はお前の人生を考えて選択しろ。まだ、時間はある」
でもさ、親父さん。
これ以上、どこから借金出来る?
言いたい言葉は飲み込んで、別の話しをすることにした。
「今度の土日、友達の家に泊まりに行く」
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