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これまでと違い、物音を立てないように慎重に民家に近づき、灯りの漏れている窓付近の壁に背を向けて張り付き息を殺すと、苔の生えた、いかにも手入れをする人物がいなさそうな民家の中に意識を集中させる。
「がはははっ! 今日も大猟だったな! おう、お前達ももっと飲め。今日は気分がいい」
「それにしても親方。例の件なんですが、順調に進んでいるんですかねぇ?」
「なぁに、何の知らせも無いってこたぁ、順調に事は進んでるってことだろ。心配はいらねぇよ」
真夜中だというにもかかわらず大声で叫ぶように話す盗賊の頭は、豪快な黒い口髭に丸く出た腹、そして太い腕はその辺の丸太よりもあきらかに太い。
何よりも目を惹くのはその服装である。貴族でもない者が手に出来る筈も無い高価な衣服、その胸の部分には中流貴族であるグリム家の、太陽をモチーフにした紋章が金色の糸で縫われている。明らかにその衣服は盗品であり、そして似合っていない。
ヘルシャが受けた依頼とは「盗賊の討伐および拘束」という、彼にとってはこれ以上ないほどの得意な仕事である。……しかし。
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