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「余裕だろ」
永水高校、サックスパート桐山の一言がそれだ。永水の発表が始まる寸前にそう漏らした。
強気だ。横の席に座っている永水高校サックスパート松田は少し不安そうな顔をする。
「ま、じ……じゃない、杉山先輩があんな自信満々の顔するときって大概何か確信あるからね」
松田は一応クラブ外では仁先輩と呼んでいるからか、少しそう呼びかけた。というのも今は関係のない話だが、そうこう言ってる間に永水高校の発表は見事に金賞を飾っていた。永水高校の付近が盛り上がる。
しかし、こんな物ではこの2人は大きく動きはしなかった。
「騒ぎやがって。ツキが逃げる」
「喜んで当然でしょ。一年生とか初の金賞なんだから」
「俺は食いたりねぇ。もう一個。もう一個金賞がいる」
桐山はまたそのキツイ顔つきでニヤリと笑う。
それは県大会までも制覇するつもりでいた。
「(確かに、桐山の実力は凄い。それに周りに与える影響力もとんでもない。だからウチはここまで強くなったんだけど)」
松田は桐山の顔を一瞥してまた舞台に向き直った。
そこには堂々たる姿で立っている稲原が居た。
当たり前のようにもらう金賞。揺れるポニーテール。
「稲原先輩。今はすっかり敵っすね」
「あんだよ。中学校の先輩がどーのとか関係ねぇ。俺らが輝く事に専念しねぇと潰されるぞ」
桐山がボソッという。
松田は内心で わかってるわよ とだけ呟いたが、こいつ桐山は昔から鬼の桐山と呼ばれて居たとかでキツイ性格と独裁に見えるような事をするタイプの人間だ。
すべて見通してるのか、だからなのか、ぽろっという言葉に深みがある。
厳しいけど、誰よりも人情に富んだ人間だ。
松田はそれに気付いている。
そしてあっという間に代表の発表が始まる。
呼ばれるならば、四番の永水が一番始めでなければならない。
松田はここまできてやっとモゾモゾし出した。
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