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まいったな。
進藤は音楽室のピアノの椅子に座った。
珍しく唇を巻いたように噛み、悩むような仕草をみせる。
「(今会ったって……見せるかおも聞かせる音もない)」
進藤はおもむろにピアノを引き始めた。簡単だが、多少は引いてないと引けないような曲だ。
「あら、あんたピアノ弾けるのね」
神川が準備室から顔を覗かせた。進藤は手を止め、コクりとうなずいた。
「なによ。まさか本気で悩んじゃってるわけ?」
「違う」
進藤は腕を組んだ。
「じゃあなによ」
「……ゆ、夕飯の献立をだな」
「(こいつもほんと馬鹿ね)」
神川は困ったように笑って見せた。
「まぁ個人の問題だとは思うけど、もちろわ何かあったら私も手伝うからね?あの馬鹿たちも同じこと思ってるはずよ」
神川はそう言うと壁に寄りかかった。
「ふん。余計なお世話だ」
「だから何かあったらっていってるでしょ。この猫頭」
「……」
進藤もいつの間にか神川に頭が上がらなくなっていた。
「言いたくはないけど。千尋には感謝してるの」
「…」
進藤はフッと神川の顔を見た。
「なんかアイツとこうやってやってたらクラブしてんぞーとか、青春してんぞーってなるのよね、なんだか」
「まぁ、頭の中幸せだからな」
「言えてる」
神川はクスクス笑った。
「あの剣山もあそこまでにしちゃうんだもん。ほんと、立派。あいつ本来の良さが帰ってきたわ」
「そうなのか?そんなになのか?」
「まぁ、本人にまた聞いてみなさいよ」
「それもそうか」
進藤は目線を上に向けた。それを見た神川は安心したような顔を見せる。
この進藤も、すっかり剣山を信頼しようとしてるんだなって感じ取ったのだ。
「あたしも楽しいわよ。馬鹿ばっかで」
「俺は含めるなよ」
「はいはい」
神川はまた笑う。
「あんたの行動力のお陰でもあるのよ?」
神川はそう言って続けた。
確かに、千尋の気持ちを行動に移すことは幾度かやってのけた。そこの行動力だろう。
「それはお前にも言えるがな」
進藤はフッと笑ってそう返した。
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