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「何者」
進藤が腕を組み、手を口にふれさせた。
「ん?私北条杏奈」
北条はドンと深く椅子に座った。
「数年前とは言えど、1人で3年間吹奏楽をやったってレベルじゃねぇだろ」
剣山は驚いた顔でそう言った。
「あん?人数に上手い下手も関係あるのか?」
この場が凍りついた。5人の中の何かがひっくり返されたようだ。
「ない!と思いたい!」
千尋が叫ぶ。
「だからねぇって。己がどんだけできるとかやれんのは己次第だっての」
北条が半ば笑いながら立ち上がる。
「にしても。本当に何者だ」
進藤が疑うように聞き入った。北条は嫌そうな顔をする。
「先輩には~ですか?だろー?」
と言ってはまた笑う。
「私はただのスーパーの社員よ」
手をひらひらさせるようにして北条は言った。
「でも。その反面は、風光吹奏楽団【フウコウスイソウガクダン】のサックスパート首席。最年少よ」
北条は悪意のあるようなウインクを繰り出した。
「風吹!?」
剣山と神川は同時に叫ぶ。千尋も呆気にとられる。
風光吹奏楽団はこの地域じゃ有名なプロの吹奏楽団である。定期的な公演はもちろん、地域行事やボランティア演奏と活動の幅も広く、楽器演奏のクリニックなども行っている為に吹奏楽関係者なら知らない人は少ない。
そのサックスパートの首席だといい張るのだ。いやに可笑しい。
「あ、最年少は本当だけど首席は嘘」
全員見事にずっ転けた。
「ほ、本当に?スーパーの店員してるのにプロ楽団員?」
「あは、スーパーのオーナーさんがコンサートマスターだからねぇ」
神川の質問にはさらに大きな答えが返ってくる。
「み、ミーティングタァァァアアアイムゥ!」
千尋部長が手を挙げると5人は一斉に部屋の隅へと移動した。
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