今年の夏も気温と楽器が熱い

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ロビーは静かだった。それはそう。まだ発表が終わっていない。このホールは演奏会などでよく使われるホールの為、千尋には構造なんてよくわかっていた。だからこそあの男がここから出てくる事は手に取るように分かる。 時期に発表は終わる。あの男が出てくるのだ。 長い、長い沈黙だったが、会場は開きどよめく。すっかり慣れた感覚だ。 そうすると関係者入口からトロフィーを持った人が出てくるわけだが 「だーはっは!どうだ!稲原!とってやったぞ!」 「うるさいな。地区代表くらいで騒ぐな」 「先輩」 千尋は代表高校2人の前に足取りを止めるように立った。 「千尋…」 「永水の奴らより早くにお出迎えとは、ご苦労」 今千尋の目の前には遠い遠い存在の2人が居る。熱く、熱く吹奏楽で戦い続ける昔よりも強くなった2人が。 「おめでとうございます」 千尋は泣いてしまった。何故かはわからない。この人たちの結果に涙するには千尋という人間としては少し不自然だ。 2人は当たり前のようにそれは感じて、少し笑っていた。 そして、杉山は千尋の頭をポンと叩く。 「千尋。剣崎からあのあと色々聞いたぞ」 「同じく。お前の事は良くわかってるつもりだ」 千尋は顔をあげる事も出来ない。 「あんまり後ろめたくなるな。コンクールに出て、こうやって吹奏楽する事がすべてじゃない」 「稲原ぁ、なんてテンプレな返事だよそれ」 「うるさいな、最後まで聞け」 すると稲原も杉山の手に重ねるように頭を叩いた。 「私は全国区に実力を轟かす強豪だ。こいつも、それに食らいつくだけの実力者だ。 人数や方向性の違いで土俵にも立てないのは仕方のない事かもしれない。 けれど、同じ音楽だろう。 私達と同じ土俵でなくても、同じ場所で吹奏楽は楽しめる。 」 千尋は泣きすする音もしなくなって固まってしまう。稲原はそれを見て笑った。 「さっさと追いついて来い。お前じゃ出来ないなんて、言い訳や嫉妬でも言えない言葉だよ」
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