今年の夏も気温と楽器が熱い

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「稲原。さっさと手のけろ」 「次いったらしばくぞ」 千尋は特に反応もしなかった。心境も見て取れるようでもない。 「もう一度いう。後ろめたくなるな。お前のやる気や笑顔は人を呼ぶ。もっと仲間を大事にしてやれ」 千尋の後ろには何時の間にか一条のメンバーが居た。 「おい、千尋。集合だぞ」 「道に迷ったのかと思ってたのに」 「阿保」 「あ!!今日日曜日!!冷蔵庫のプリン明日までだ….」 四人は千尋を囲むように立った。 「ほれ、連れてってくれ」 「馬鹿だけど、馬鹿だから」 稲原と杉山は千尋の胸を押した。 「じゃ、私も集合なんでな」 「俺も永水の奴らにトロフィーと賞状みせてやらねぇとな」 そういうと2人は反対側の通路から消えて行った。残されたのは五人だけとなった。 千尋は顔も見せず俯いたまま。 四人はさすがに察していて、どうしようか迷っていた。 「千尋。ほら、なんつーか、な。さっさとデカいクラブつくってやろーぜ」 と、剣山が千尋と肩組する。 「いつまでしょげてんだアホ」 進藤は千尋の背中を軽く叩いた。 「何言ってんだ、バーカ」 千尋が振り返るとにやけ顏で笑っていた。 「「「「!!!」」」」 「心配されるほどヤワじゃねーよ!!」 千尋はそのまま飛び上がるように走り出した。 「集合行こうぜ!」 「なんだよ!せっかく心配したのに!」 剣山が怒ったように千尋を追いかける。 「立ち直りはいつも極端よね」 神川も続けて歩き出す。 「わーい!千尋元気だー!」 桜井も追いかけっこするように千尋を追い掛けた。 「まだ。まだ俺らには二年もある。何ができるのか、何をするのかなんて急ぐ必要なんてない」 進藤は真顔で最後に振り返るように歩き出した。 「(ありがとう)」 千尋は追いつかれないくらいスピードを上げて走って行った。
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