433人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっさとケースを並べろ。手を止めるな」
朝から騒がしく動くのは、県大会出場高、永水高校。そしてそのど真ん中で仕切るのは部長、杉山仁。相変わらず髪をシュッと決めてキザっぽくしている所が杉山。文科系でもかっこいいんだぜと言わせたい杉山。
「手の空いた者から各パートで楽器の点検。点検が終わったらパートごとに点検長に報告。すべて終わり次第待機で、点検長は俺に報告だ」
杉山が大きな鋭い声でそう指示をだすと、大所帯校特有の圧力のある返事がロビーに響く。演奏するだけの本番だとしても組織として抜かりはない。むしろ、多数の高校が来ている今こそ組織としての実力を見せるべきだと、杉山は心に思い頷いていた。
「先輩。ぼーっとしてないで先輩の楽器点検しますからこっちにください」
「ん!、あぁ」
杉山は情けない背中で松田に楽器を渡す。これこそ杉山。
「よーう!杉山!」
と、その杉山の背後から声がする。杉山は何かと思いパッと振り向くと、そこには北条が立っていた。
「っっっっ!!!北条先輩!!」
杉山は悪いものでも見たかのように一歩下がった。
「へぇぇ。演奏会ではこんなにきっちりしてるのな」
北条はニヤニヤしながら杉山の肩を叩く。
「当たり前っすよ。俺は永水高校部長ですからね」
「生意気なやつだな、中学一年の時からほんと変わらね」
「すっぎやっませーんぱーーい!!!」
「ん!」
すると今度は千尋が満面の笑みでこっちに走ってくるではないか。
「おおお、千尋ぉ!もう来てたのか!そうだ、この人がな、六中の……」
杉山がそう説明しようとした時には北条と千尋は睨み合っていた。
「え。北条さんなにしてんすか」
「いや、千尋。あんたも何」
「あれ、北条先輩?千尋?知り合い?」
杉山が事態を飲み込めない。
「この人、指導者っす」
「こいつ、教え子」
「………わかった。入れ替わりだからだな。うん。北条先輩は俺の二個上の六中の先輩。千尋は俺の二個したの六中の後輩」
「ええええええええ!!!!」
「うえええええええ!!!!」
さっきの永水の返事よりも大きい二人の叫びがロビーに響いた。
最初のコメントを投稿しよう!